小説粗忽の使者
粗忽の使者
森田カオル
俺も暇じゃぁねぇんだけどよ、ユリちゃん
が連れてきたお客さんだからよ、何でも聞い
てくれよ。……今あんたをここに案内してき
た事務の女の子だよ、ユリちゃんって。
何？ マツオカ……ああ、マッちゃんか。
アイツねアイツ。それがさ、聞いてくれよ。
アイツ、この間よ、ハッハッハ……。いや悪
ぃ悪ぃ。それがさ、間抜けな奴でよ、配車係
に「練馬の大泉町」へ集荷に行けって言われ
てさ。そう、関越インターのある。で、アイ
ツどこへ行ったと思う？ 「群馬の大泉町」
へ行っちまったんだよ。電話かかってきてさ
ぁ「関越道の東松山インターで降りて利根川
越えて、地図見たんだけど、『大泉町一丁目』
って載ってないんです。インターチェンジの
そばって言われたんですけど、見当らないん
です」だと。高速乗るときに気がつけって。
通過してるってぇの。
それだけじゃねぇんだ。杉並に「堀ノ内」
って所があるんだけど、あんた知ってる？
で、あんたももう察しが付いてると思うけど、
アイツぁ川崎の「堀之内町」に行っちまった
のさ。杉並に競馬場はねえってぇの。
目黒の「三田」と慶応大のある「三田」を
取り違えたってぇんならまだわかるけどさぁ、
あれじゃぁあんまりだ。あの調子じゃぁ、そ
のうち「向島へ行け」って言われて、小笠原
の「聟島」にでも行きかねねえぞ。もっとも
漁船でもチャーターしなけりゃ行けやしねぇ
けどよ。
そう言やぁ、アイツ、暫く見てねぇな。
えっ、あんた刑事さんだったの？ で、用
件は？ ……「済んだ」って。何で？ マッ
ちゃんの事だろ。知ってる事ぁ話すよ。……
「理由がわかった」って？ 俺ぁまだ何も話
してねぇぞ。なあ、刑事さんよォ……。
森田カオル
俺も暇じゃぁねぇんだけどよ、ユリちゃん
が連れてきたお客さんだからよ、何でも聞い
てくれよ。……今あんたをここに案内してき
た事務の女の子だよ、ユリちゃんって。
何？ マツオカ……ああ、マッちゃんか。
アイツねアイツ。それがさ、聞いてくれよ。
アイツ、この間よ、ハッハッハ……。いや悪
ぃ悪ぃ。それがさ、間抜けな奴でよ、配車係
に「練馬の大泉町」へ集荷に行けって言われ
てさ。そう、関越インターのある。で、アイ
ツどこへ行ったと思う？ 「群馬の大泉町」
へ行っちまったんだよ。電話かかってきてさ
ぁ「関越道の東松山インターで降りて利根川
越えて、地図見たんだけど、『大泉町一丁目』
って載ってないんです。インターチェンジの
そばって言われたんですけど、見当らないん
です」だと。高速乗るときに気がつけって。
通過してるってぇの。
それだけじゃねぇんだ。杉並に「堀ノ内」
って所があるんだけど、あんた知ってる？
で、あんたももう察しが付いてると思うけど、
アイツぁ川崎の「堀之内町」に行っちまった
のさ。杉並に競馬場はねえってぇの。
目黒の「三田」と慶応大のある「三田」を
取り違えたってぇんならまだわかるけどさぁ、
あれじゃぁあんまりだ。あの調子じゃぁ、そ
のうち「向島へ行け」って言われて、小笠原
の「聟島」にでも行きかねねえぞ。もっとも
漁船でもチャーターしなけりゃ行けやしねぇ
けどよ。
そう言やぁ、アイツ、暫く見てねぇな。
えっ、あんた刑事さんだったの？ で、用
件は？ ……「済んだ」って。何で？ マッ
ちゃんの事だろ。知ってる事ぁ話すよ。……
「理由がわかった」って？ 俺ぁまだ何も話
してねぇぞ。なあ、刑事さんよォ……。
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