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               森田カオル



 ケータイから、彼のデータを消した。デー

タフォルダから、メールの履歴と、写真も消

した。

 彼からのプレゼントは、すでに処分し終わ

っていた。

 さっき、彼のアパートへ行ってみた。ドア

ノブに、電気や水道の開通を知らせるための

書類が吊るされていた。

 お互い行き来した部屋。

 今までは、独りでいる時も、それは彼の存

在に対する不在だった。

 今は、「無」しかない。

 彼と訪れた場所も、その「無」を証明する

場所でしかなくなった。

 小さなアルバムを、戸棚から取り出した。

 彼の写真。彼が見た光景の写っている写真。

彼を見ている私の面影が映っている写真。

 同じ棚にしまってあった、手動式のシュレ

ッダー。電動式だと危ないから、と、彼が買

ってくれたもの。そこへ、写真を一枚ずつ差

し込んで、ハンドルを回す。

 がりり。

 彼が断裁される。

 私が過ごしてきた時間が、わたしの心が、

粉砕される。

 がりがりがりがりがりがりがりがりがり。

 嗚咽が漏れる。

 わたしは、口にハンドタオルを当てる。タ

オルはやがて、塩辛くなっていく。

 私は号泣しながら、ハンドルを回す。

 痛いよ……。

 私が砕かれていく。データではない、実体

の私が、粉々になっていく。

 彼の痕跡は、すべてなくなった。

 私は、シュレッダーごとゴミ袋に突っ込ん

で、ゴミ捨て場に放り込んだ。
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