戦車



               森田カオル


 家族で帰郷していた所へ、旧友が訪ねてき
た。
「へえ、キョウちゃん、レースやってるんだ」
 新年の挨拶もそこそこに、納屋の前にある
バイクを見て、旧友はそう聞いてきた。
「俺じゃなくて、倅のだよ」
 無理もない。息子は去年やっと十六になっ
たばかりだ。免許も取得して日が浅い。
「明日、こっちでレースなんだ。里帰りのつ
いでってわけ。草レースだけど。あいつ、バ
イトで金貯めて中古の原付やら何やら自分で
準備しててさ。ま、反対する理由はないし」
「やっぱり、血かな」と旧友。
「何でだ」
「キョウちゃんってさ、『ガンプラ』全盛期
にひたすら『F1』だったじゃないか」
 確かに、アニメのロボットプラモデルのブ
ーム時に、自分はフォーミュラーカーのプラ
モデル制作に没頭していた。
「テレビ番組でも、戦争の話とか、戦隊物と
か、全否定だったもんな、キョウちゃんは。
変わり者だと思ってたけど、今思うと、筋金
入りの反戦論者だったってわけだ」
 息子も、ヒーロー物の番組は見なかった。
自分の意見を押し付けたことはなかったつも
りだ。だが、気付けば父親に思想が似ていた。
 殺し合いが嫌、という彼の思いは、やがて
形を変え、己を鍛える方向性を得たらしい。
小学生の頃から近所のバイク屋に顔を出し始
め、ジュニアレースにも出ていた。高校受験
の際にも、整備士になるか機械設計に進むか
悩んだ挙句、後者を選び、そこから猛勉強で、
難しいと判定されていた進学校に滑り込んだ。
 今、彼は納屋の前で、自分の戦闘マシンの
整備に余念がない。BGMにジョン=レノン
を聞きながら。
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