悪魔(白雪姫異聞3)
森田カオル
刺客から吉報を受けた妃は上機嫌で自室へ
戻り、込み上げる笑いを堪えきれず、部屋中
に高笑いを響き渡らせた。そして今日は、軽
やかな口調で鏡にこう問いかけるのだった。
「鏡よ、世界中で一番美しいのは誰だい」
「それはお妃様、あなたでございます」
相変わらず品の無い口調で鏡が答える。最
近ではこの後に「ですが、スニービッヒェン
はあなたの百倍美しいでげす」と口上が付い
たのだが、今日はそれがない。妃はますます
高揚し、ついにオペラ『私が一番美しい』を
夜中まで独りで演じるに至った。
しかし歓喜は長くは続かなかった。
ある朝、いつものように妃が鏡に向かって
問いかけると、鏡はこう答えた。
「それはお妃様、あなたでございます。です
が、森の奥のドワーフの家に居る七人のスニ
ービッヒェンはあなたの百倍美しいでげす」
妃は耳を疑った。そして、混乱しそうな意
識を集中させ、改めて問い直した。
「スニービッヒェンは、生きているのかい?
で、あの子は、何人居るって?」
「七人でげす」
妃は卒倒しかけ、混濁してゆく意識の中で
辛うじて顕在意識に踏み留まった。
「ドワーフが七人ではないのか」
しかし鏡は躊躇なく答えた。
「いえ、ドワーフは一人。あなたの娘が七人」
普通の人間ならば恐慌を来していただろう。
だが彼女を動かす行動原理は、非常にわかり
やすい言動となって発現した。
「七人居ようが百人だろうが、根絶やしにし
てくれるわ。今度は人は使わない。自らスニ
ービッヒェンの息の根を止めてやる」
鏡は語らず、憎悪に燃える妃を映していた。
「きっと倒してやる、あの悪魔め!」
森田カオル
刺客から吉報を受けた妃は上機嫌で自室へ
戻り、込み上げる笑いを堪えきれず、部屋中
に高笑いを響き渡らせた。そして今日は、軽
やかな口調で鏡にこう問いかけるのだった。
「鏡よ、世界中で一番美しいのは誰だい」
「それはお妃様、あなたでございます」
相変わらず品の無い口調で鏡が答える。最
近ではこの後に「ですが、スニービッヒェン
はあなたの百倍美しいでげす」と口上が付い
たのだが、今日はそれがない。妃はますます
高揚し、ついにオペラ『私が一番美しい』を
夜中まで独りで演じるに至った。
しかし歓喜は長くは続かなかった。
ある朝、いつものように妃が鏡に向かって
問いかけると、鏡はこう答えた。
「それはお妃様、あなたでございます。です
が、森の奥のドワーフの家に居る七人のスニ
ービッヒェンはあなたの百倍美しいでげす」
妃は耳を疑った。そして、混乱しそうな意
識を集中させ、改めて問い直した。
「スニービッヒェンは、生きているのかい?
で、あの子は、何人居るって?」
「七人でげす」
妃は卒倒しかけ、混濁してゆく意識の中で
辛うじて顕在意識に踏み留まった。
「ドワーフが七人ではないのか」
しかし鏡は躊躇なく答えた。
「いえ、ドワーフは一人。あなたの娘が七人」
普通の人間ならば恐慌を来していただろう。
だが彼女を動かす行動原理は、非常にわかり
やすい言動となって発現した。
「七人居ようが百人だろうが、根絶やしにし
てくれるわ。今度は人は使わない。自らスニ
ービッヒェンの息の根を止めてやる」
鏡は語らず、憎悪に燃える妃を映していた。
「きっと倒してやる、あの悪魔め!」
スポンサードリンク