不幸な王子と小人たちの話



               森田カオル


 盲いた若者がドワーフの森に辿り着いた。
彼は塔に軟禁された少女との密通が露呈し、
魔女に塔から突き落とされたのであった。
 貴金属や宝飾品に精通したドワーフの意見
では、何処かの王族の身なりだという。
 スニーヴィッヒェンは、大けがをしたドワ
ーフの仲間と同様、若者を自分と同じ姿に変
化させた。彼は視力を取り戻した。
「怪我が治っているのは、この姿になってい
る間だけですー。元に戻れば怪我も元通り」
 こうしてドワーフの家は、一人のドワーフ、
七人のスニーヴィッヒェン(姿の男)、それ
に、半妖魔の姿に戻ったスニーヴィッヒェン
(本人)の九人が共同生活を始めたのだった。
 ある日、物売りの老婆に変装した妃が、娘
を暗殺すべくこの家にやってきた、たまたま
応対したスニーヴィッヒェン姿の王子は、毒
リンゴを齧って呆気なく死んでしまった。
 仕方なく弔いを行おうとしたその時、王子
の亡骸が突如空中に舞いあがった。と同時に、
スニーヴィッヒェンの体から黒霧が噴き出し、
王子を包む。稲妻が轟く。思わず身を伏せた
一同の上から、女の声が響いた。
「我が名は、ナヴァ」
「ナヴァさん、お久し振りですぅ~。私に吸
収されちゃったのかと思ってたんですよ~」
 死んだばかりの王子の亡骸に憑代を移して、
妖魔は復活を果たしたのだった。
「これより我とこの娘は、あの妃めとの決着
をつけに、この男の故郷の王国で準備を整え
ようと思う。皆、世話になった。礼を申すぞ」
 あっけにとられているドワーフと六人のス
ニーヴィッヒェンを残し、二人は旅立った。
 残された連中は口々に叫んだ。
「おい、この恰好のままじゃ、あの妃がまた
殺しにやってくる。早く何とかしてくれ!」
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