節制



               森田カオル


 体重税が導入された。
 国民は挙って体重を落とそうと努め、メデ
ィアはさまざまなダイエット法の特集を組み、
連日のように報じた。
 人々の価値観も変化した。小柄で華奢が美
徳、巨漢と肥満は悪徳とされた。モテまくっ
ていた長身男性はそっぽを向かれ、肥満体は
人格さえ否定される始末である。
「国民の間に戸惑いは見られますが、総体的
には健康増進に励んでおります」
 厚生大臣が首相に言った。
「医療費が減少し保険の国庫負担が大幅に下
がりました。生産性も向上しております」
「強行採決した甲斐があったね。だけど、行
き過ぎたダイエットが心配だ。啓発活動もし
っかり頼むよ」
 そうして法律施行後の初めの一年は好調に
過ぎたかに見えた。
 しかし人々の痩身に対する意識もやがて薄
れていった。その後、与党が選挙で負け、政
権が交代すると、たちまちこの体重税は廃止
となった。
 反動で人々は太りまくった。糖尿病を始め
さまざまな病がじわじわと国民に広がってい
った。だが人々は再び痩せようとはしなかっ
た。劇的な価値観の変化は、元の木阿弥とい
う結果に終わった。
 首相の座を追われた男は妻に聞いた。
「法案を通す前に、確か君は、法律が施行さ
れても、長続きしないと言っていたね。君の
予言どおりになった。何で、せっかく痩せた
のに、皆また太ろうとするのだろうか」
 少しふくよかな彼女はにこやかに答えた。
「だって人間は本質的に太るようになってい
るんですもの。痩せるにはそれなりの大義名
分が必要なのよ」
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