スプーン一杯の幸福



               森田カオル


 スケソウダラの腹を捌いているので、鍋物
の仕度をしているのかと思った。
「自家製のタラコを作るんです」
 彼女は言った。
「市販のタラコは怖くて食べられないでしょ。
だから自分で作るしかないんです」
 彼女の話では、市販のタラコは、無着色の
ものでも発色剤が使われている。その発色剤
は、かなり毒性が高いものだそうだ。
「でも、農水省が認めている添加物でしょ?」
 しかし彼女は困惑した表情で言った。
「安全だから認めているとは限らないんです。
語弊があるかも知れないけど、危険だと認め
てないから認可されているのだと思います」
 彼女はそれから、私たちが日常食べている
食品に用いられている添加物の具体例を挙げ、
その危険性を手短に説明してくれた。
「うちの子、アトピーなんです。以前はひど
かった。可能な限り添加物を排除した食事に
変えてからですよ、今のようにきれいになれ
たのは。薬はずっと同じのを処方されている
のに、ですよ。こんなに劇的に効果があった
のはうちの場合だけかもしれませんけどね。
ただでさえ薬という化学物質を取り込まなけ
ればならないんです。それ以外の化学物質は、
取らないに越したことは無い。これが我が家
の家訓、とでも言うんでしょうかしら」
 考えてみれば、市販の食品は添加物まみれ
である。それ無しに、今の日本の食はありえ
ないといっても過言ではない。
「ばかばかしいと思われるかもしれませんけ
ど、あれが旨いの、これが珍しいのといって
日本中を探し回るのに比べたら、どうという
ことはないと思っています」
 彼女は、わが子が口にする一匙に、その人
生のすべてを注ぎ込んでいるのであった。
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