罪と罰




               森田カオル


「あー、そこのお嬢さん、駄目だよー」
 吸殻を道端に投げ捨てた途端、警官に呼び
止められた。
「ごめんなさーい」
 悪びれる風もなく答えた。すると警官はハ
ンディターミナルをショルダーポーチから取
り出すと、女の顔にかざした。
「二十点減点だよ」
「は、はぁっ?」
 呆気に取られている女に、警官は言った。
「知らないの? 今月からだよ、始まったの。
『国民点数法』」
 女の顔がみるみる蒼ざめていく。
「あたし、三年位日本を離れてて、一昨日帰
ってきたばかりで……」
 しかし警官はかまわずに続けた。
「累積減点百で人権剥奪だから気をつけて」
「ジンケン……って、何それ」
「人として扱われないって意味。……あっ、
君、さっき〈歩きタバコ禁止区域違反〉やっ
てるね。昨日は〈ごみポイ捨て違反〉と、〈電
車内携帯電話通話違反〉で……まずいよ、も
う累積七十点になってるよ」
「マジありえない。いつチェックされたの」
「今は町中監視カメラだらけだし、個人特定
の技術も進歩したからね」
 女は少し考えていたが、また外国へ行こう
というようなことを言った。だが警官は気の
毒そうに彼女の言葉を遮った。
「五十点超えたら海外渡航が禁止される」
「そんなひどい。……ところで、普通の犯罪
って何点取られるの?」
「刑法犯は刑事罰だから、点数は関係ないよ」
「良かったぁ~」
と、思わず口走って、ハッと警官の顔を見た。
彼の目がギラリと光った。
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