交渉人(白雪姫異聞2)



               森田カオル



「大体の事情は了解した」
 髭の中に顔の造作が点在しているような、
背丈の低いずんぐりした男――ドワーフが、
鋭い視線を向けている。視線の先に、黒髪に
白い肌、白い外出用ドレスのあどけない少女
が座っている。スニーヴィッヒェンであった。
「お前さんを此処に匿う条件の前に、一つ聞
いておきてぇ事がある」
 男が鋭い視線を向けた。
「お前さん、本当に人間族か? さっきそこ
の長椅子で眠っていた姿と今のその姿とがま
るっきり違うのは、何でだ」
「私、変身できるんですよー」
 ドワーフは訝しげに顎髭をいじくっている。
「その変身能力とやらで、刺客から逃げると
いう懸案は、解決できんのかな」
「一日中変身してられないんです。くたびれ
ちゃうんですよー」
 今の姿が、変身状態である事は黙っていた。
「いいだろう。邪悪な者ではなさそうだ。た
だし、匿ってやるにあたって条件がある」
「洗濯炊事なら、一応、できますよー」
 しかしドワーフは首を振り、寝室のドアを
開けた。七つのベッドのうち六つにはドワー
フの仲間が横たわっていた。
「家に入ってきた時に気が付かなかったか?
俺以外は皆大怪我しとる。ゴブリンに襲われ
たんだ。どうにか追っ払ったがこの有様だ」
「まあ、御労しい」
 ドワーフの口調は懇願の色を帯びてきた。
「家事なんかどうでもいい。なあ、仲間が復
帰するまで俺と一緒に粗金掘りを手伝ってく
れないか。この様じゃ商売上がったりなんだ」
「はあ……」
 家事も粗金掘りもどちらも御免被りたい白
雪姫であった。
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