森田カオル


 トイレでショーツを下ろしたら、小さな卵
形のものが中にあった。鶉卵ほどの白い物体
がいつの間にか入っていた。それは少し濡れ
て温かだった。
 自分が産んだ? ……としか考えられない
けど、何なのだろう。卵? ……まさか。自
分が卵を産むなんてあり得ない。とりあえず
冷静にならないと……。
 ユニットバスの洗面台に温めの湯をはって
その物体を浸した。膝下に絡まっているスウ
ェットパンツとショーツをすっかり脱いだ。
腰から下は裸のまま部屋を横切り衣装ケース
を開けて新しい肌着を用意した。そして上半
身に纏っていたTシャツとトレーナーもすべ
て脱ぎ去って、再びユニットバスに戻った。
カランの横の水栓をひねって熱いシャワーを
頭から浴びる。
 さて、どうしよっか。気味悪いけど、棄て
るのもしのびない。本当に何かの卵なら、い
ったい何が孵るんだろう。
 シャワーを止めてバスタブにしゃがみ込む。
 友達にメールしてみよう。彼女は何て言う
かしら。本気にしないで笑うだけかも。それ
に、卵じゃなく他の何かだったら、呆れられ
るに違いない。
 立ち上がり、改めてその物体を見た。静か
な水底でそれは少し震えているように見えた。
 もしこれが命あるもので、わたしから生ま
れたのならば、わたしの命を受け継いでいる
だろう。生まれてくるのは異形のものかもし
れない。でも、孵してみたい。生まれ来るも
のに触れてみたい。
 湯の中からそれを取り上げてじっと見つめ
た。艶やかな表面は虹彩を帯びていた。
 そのとき、それが少し動いたように見えた。
まるで小首を傾げたかのように。
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