白雪姫異聞
森田カオル
魔方陣から現れたのは、紅蓮の髪と黒い肌
に申し訳程度の布地を纏っただけの、女の妖
魔であった。半ば廃墟の大広間の片隅から少
女の漆黒の瞳がそれを見上げている。黒髪は
解れ白磁のような肌も煤けてはいるが、美し
い面立ちや表情に気品が漂っている。
だが、容貌とは不似合いに間延びした口調
で少女が話しかけた。
「私はスニーヴィッヒェンといいます~。
『白雪姫』という意味です。あなたは魔界か
らいらした方ですかぁ~」
「如何にも」妖魔はナヴァと名乗った。
「わかっておる。実の母親から命を狙われて
いるのだな。えげつない話じゃ」
「助けて欲しいんです~。せめてお母様から
逃げきれるように」
緊張感の無い喋りだったが、表情は切羽詰
まっている。
「吾が使える能力は変化(へんげ)のみだが、
そなたの役に立つであろう。ただ、吾は現世
では実体を持たぬゆえ、そなたに憑依させて
もらう。それが、吾が力を貸す契約の条件だ。
心配無用、そなたの人格まで奪ったりせぬ」
妖魔は少女に手招きをする。誘われるまま
少女は魔方陣へ足を踏み入れた。
その途端、周囲は閃光と轟音に包まれた。
重なる絶叫。館のみならず世界中が振動した。
……焼け落ちた館の中心に、一人の女が立
っていた。ブロンドの髪と小麦色の肌。そし
て青白いローブを纏っていた。呆然としてい
た女は、我に返り自分の頬を幾度も叩いた。
「おいナヴァ、返事をしろよ」
彼女の叫びだけが、空しく焼け跡に吸い込
まれていった。
「ナヴァの奴、アタシに吸収されちまった!」
性格が激変したが、それは白雪姫であった。
森田カオル
魔方陣から現れたのは、紅蓮の髪と黒い肌
に申し訳程度の布地を纏っただけの、女の妖
魔であった。半ば廃墟の大広間の片隅から少
女の漆黒の瞳がそれを見上げている。黒髪は
解れ白磁のような肌も煤けてはいるが、美し
い面立ちや表情に気品が漂っている。
だが、容貌とは不似合いに間延びした口調
で少女が話しかけた。
「私はスニーヴィッヒェンといいます~。
『白雪姫』という意味です。あなたは魔界か
らいらした方ですかぁ~」
「如何にも」妖魔はナヴァと名乗った。
「わかっておる。実の母親から命を狙われて
いるのだな。えげつない話じゃ」
「助けて欲しいんです~。せめてお母様から
逃げきれるように」
緊張感の無い喋りだったが、表情は切羽詰
まっている。
「吾が使える能力は変化(へんげ)のみだが、
そなたの役に立つであろう。ただ、吾は現世
では実体を持たぬゆえ、そなたに憑依させて
もらう。それが、吾が力を貸す契約の条件だ。
心配無用、そなたの人格まで奪ったりせぬ」
妖魔は少女に手招きをする。誘われるまま
少女は魔方陣へ足を踏み入れた。
その途端、周囲は閃光と轟音に包まれた。
重なる絶叫。館のみならず世界中が振動した。
……焼け落ちた館の中心に、一人の女が立
っていた。ブロンドの髪と小麦色の肌。そし
て青白いローブを纏っていた。呆然としてい
た女は、我に返り自分の頬を幾度も叩いた。
「おいナヴァ、返事をしろよ」
彼女の叫びだけが、空しく焼け跡に吸い込
まれていった。
「ナヴァの奴、アタシに吸収されちまった!」
性格が激変したが、それは白雪姫であった。
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